科学コミュニケーションの練習問題としてのタイラーズ

最近になってタイラーズに言及する人達は面白い。
最初の頃、この問題に言及していた人達は「内輪」だったから、誰がどの程度どうなのかが大体ぶれていなかった。しかし、最近になって、伝え聞いたり英文を訳したりして頑張って論じる人が増えてきて、いろいろねじ曲がっている。。。タイラーズはジャーナリズムのタイラーズを生んだ、か。

一億総ジャーナリズム時代は、無数の無知な新聞社が出来るのと一緒で、圧倒的にガセの二次情報が多くなるという必然をかいま見る感じ。いちいち苦情を出すわけにも行かない場合、どうすればいいのか。考えものだ。


とりあえず、明日以降、東大が処分を発表(しかもその発表前に研究室に所属する学生・院生を他研究室に移動したみたいだから、ま、そういう処分だろう。)した後の様子を見守ろう。

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Blast(胚)で適当なホモロジー(相同)サーチをかけた

ネット愛国主義の胚7 - 月刊 FACTA online βバージョン
http://facta.co.jp/blog/archives/20060116000051.html


ははは。
Blastは、たくさんの塩基(DNA/RNA)配列やアミノ酸配列の中から、要求する配列と似た配列を探してくるプログラムの名前。ネットからつかえる。→ http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast

追記。
ネット愛国主義の胚9??ベンチャーの魔の沼でこの部分は「訂正」されたのだけれど、<「Blast(胚)」は「BLAST(米国国立バイオテクノロジー情報センターが運営している遺伝子・アミノ酸配列検索サービス)」と修正する。>だって。おいおい。NCBI以外のBLASTもみんなでNCBIに聞きに行くと大変そうだね。。。

何が革命的かというと、正常細胞内ではDNA→メッセンジャーRNA→たんぱく質という流れ(セントラル・ドグマ)で遺伝子情報が伝わるが、これまで遺伝子の発現を防ぐにはDNAで遮断する煩雑な方法(アンチセンス法)しかなかった。しかし二本鎖RNA(smRNA、small modulatory RNA)と相補的な塩基配列を持ったメッセンジャーRNAが分解される現象を利用して、人工的な二本鎖RNAで任意の遺伝子の発現を抑制することができるという。塩基配列さえ予め知ることができれば、アンチセンス法よりずっと容易な発現抑制が可能になる。

ネット愛国主義の胚8
http://facta.co.jp/blog/archives/20060117000052.html

んー。2つのことをごちゃ混ぜにしているのかな。。。。

googleの「アンチセンス法」で一番上に来る
http://www.sam.hi-ho.ne.jp/tootake/1995.7.15.htm
を誤読したのかもしれない。


これまで遺伝子発現を防ぐのに普通用いられていたのはknock-outといって、DNAの配列そのものを遺伝子組み換えなどで破壊する方法。RNAiは遺伝子を組み換えなくても、遺伝子が抑制できる。

アンチセンス法は研究史的にはRNAiの源流に位置していて、「塩基配列さえ予め知ることができれば、容易な発現抑制が可能になる」方法として開発された。しかも、knock-outと違って、恒常的にDNAを破壊するわけではなく、投与(?)したときだけ遺伝子の発現が抑制される方法。アンチセンス法のようにアンチセンスのDNAだけを加える方法がまず試みられたが、実は2本鎖的な構造にしたRNAを投与した方が効いた、って話だね。

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記事によると、なななんと!「生命科学の研究論文に捏造の疑いが指摘されている多比良和誠・東京大教授(53)に対して、国が支給した研究費の総額が2000年度から05年度までで約14億4000万円に上ることが25日までに分かった。」そうです。すっごーい。毎年3億近く予算をもらってたって、想像もできん。いくら高い機械買うといっても、毎年1億の機械を買うわけない・・・って買ってたりして。建物立っちゃうよ、これは。人件費ってたって、100人も雇うわけないし、だいたい助手とかは大学から給料でるじゃん。


5年で14億 - tsurezure-diary
http://blog.goo.ne.jp/o-kojo/e/82129ca0c439fafae75b0ee754f7e7c8


http://unit.aist.go.jp/gfrc/html/gaiyou_member.html
http://web.archive.org/web/20030905024336/http://www.chembio.t.u-tokyo.ac.jp/chembio/labs/taira/beadroll/meibo_ut.htm
http://web.archive.org/web/20040301173644/www.chembio.t.u-tokyo.ac.jp/chembio/labs/taira/beadroll/meibo_tukuba.htm


どこまでが多比良先生のお金か分かんないけど、人がかなり多いのは確か。生物系だと院生が居るだけで結構お金掛かるし。確かにすごく多いお金だけれど。

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 教授に論文データねつ造の責任をなすりつけられている助手

大学の腐敗 - 5号館のつぶやき
http://shinka3.exblog.jp/3435459


→ 教授が「K助手の暴走を止められず、長年放置した人」という意味ではそうだが(そしてその責任は重いだろう)、データねつ造の発案・実行は多分助手の単独犯行だというのが周囲の見方だ。でも、この文章を読んだ背景を知らない人は、そうとは思わないだろう(ねつ造するために研究室が存在し、組織ぐるみの犯罪だったというふうに受け取るだろう)。

しっかりとした監視体制を持っていれば、そうそう簡単にねつ造などできるものではありません。この事件の背景には、研究費配分の審査体制と監査体制の不備があることはまちがいありませんので、お金を出した側の責任も問う必要があると思います。

大学の腐敗 - 5号館のつぶやき
http://shinka3.exblog.jp/3435459


管理するといいのは幻想という声もある。

 この件に関しては、国際的に評価される決着をつけておかないと、日本の科学界が世界から相手にされなくなるというくらいの危機感が欲しいです。

大学の腐敗 - 5号館のつぶやき
http://shinka3.exblog.jp/3435459


なんでも「国際的に評価」というと聞こえは良い。
でも、こういう問題に"先進の"欧米の人達からは「要は追試がない研究は研究と認めないような制度しかないかも」という声も聞こえている。



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こんなところに誤解の種