「法令遵守」が日本を滅ぼす/郷原信郎著

「法令遵守」が日本を滅ぼす (新潮新書)

「法令遵守」が日本を滅ぼす (新潮新書)


日本は果たして法治国家だろうか。


から始まるこの本。


東京地検長崎地検次席検事などをへた筆者が、これまで遭遇した出来事を踏まえ、「法」から見た本当のコンプライアンスの姿を熱く語っている。

本編は「談合」がある時期までシステムとして有効だったという検証や、ライブドア問題やパロマ事故といった数々の具体例を挙げ、「法令遵守」とコンプライアンスが乖離する刺激に満ちた実像からはじまる。そして、国家公務員倫理法で経済活動から切り離された官僚による机上の空論や、マスコミが責任を最小化するための御用報道、さらに日本では法律の成立や運用から法律家の「巫女化」によって、「法令遵守」が社会の要請に反していく姿を描いている。

全体として内容は興味深く、概念的には面白い。
ともすれば、法令遵守を斜めに見る行為は、「法律以外で解決する」方向に行きがちだが、「法律に基づこうとする立場の人が法令遵守のうさんくささを説く」というポジショニングによって、きわめて建設的な意見を提案しているように思えた。

しかしながら、(守秘義務などもあるのだろうか。)幾分具体例に切り込みや説明が足りない部分が見られた。構成を含め、本書が誰に向けて書かれた本なのか、分かりにくい。この不透明さは、一歩間違えば「ワイドショーの評論家の意見」のように根拠レスな意見の垂れ流しのように見えてしまう事が懸念され、残念である。