タイラーズ、Pten、スギ花粉データ粉飾

実は未だ「タイラーズ」でこのサイトにたどり着く人が多いようだ。なので、生命科学関連分野の捏造についてメモ書き。

  • タイラーズの研究室のカワサキさん論文には昔から黒い噂があった。研究室でも、昼間は実験しないでコンピューターの前にいる人で有名だったらしい。*1 ただ、研究室としてやっているというよりは、気弱で信じてあげる先生*2が放置していたというような現状なのかもしれないし、気づいたときにはもはや気づかないままにしておくより仕方なかったという話かもしれないが、そこらへんは良く分からない。研究室の他の人が筆頭著者の論文がどうなのかは今のところ明らかになっていないが、問題が拡大していくという印象は今のところなさそう?とりあえず、ベンチャーやっていて、前々から再現できないって後ろ指を指されている人たちが、実験ノートをなくしてはいかん。
  • 多比良先生側が何をいま主張しているかというと、手続きうんたらと、カワサキさん以外の人のことと、匿名の批判者について。東大工学部化学生命工学科はかなり化学色の強い学科だから、多比良先生の所のようなバリバリ生命系の論文について細かい指摘や冷静な判断は中々難しい。にも関わらず対応を検討した資料(しかもかなりタイラーズに批判的)の作成者が匿名なのはおかしい、という指摘でこれもまぁ尤もだ。その話と絡んでいるかは知らないけど、最初に指摘したRNA学会の会長さんは多比良先生のいる東大工学部の化学生命工学科にかなり長い間所属していた人でもあり、しかも自らの論文も何報か撤回したことがあるはず。大体、最終決定を下す現・東大総長も工学部化学系3学科のグループに属していたりもする。ま、そういうことがあるから、この件に関しては「誰が処分を決めるか」をもっとクリアーに決めた上で、結論としては「とりあえず実験ノートがなきゃ、ダメ。」という結論で良いという気もする。
  • ところで、上にも出てきたように、とかくRNAでは問題が起こりやすい。昔はcAMPでも何件か捏造事件が起こったし、「鬼門」ってのがあるのかな?RNAの場合、昔から「DNAに比べて不安定」と言われてきていて、実験で良い結果が出なくても「たまたま実験ミスで分解してしまった」と思ってしまうとか、そういう問題があるのかもしれない。じゃあ、RNAは全てダメかというとそんなことは当然ない。リボザイムとか生命の起源とかRNAワールドに関して言うと、どこまで信じて良いのか分からないところがあるが、少なくともRNAiは世界各地の研究者が確認している。
  • 問題になる事例としては、(1)悪意を持って捏造してやろうという人と、(2)ミスや考え違えで撤回に追い込まれる人に分かれるだろう。ただ、(3)ミスを嘘の上塗りを繰り返すうちに捏造犯になるケースみたいなのも想定できる。(3)は研究成果の強要とか、撤回できない土壌とかで生まれるかもしれない。(2)はそれでも実験ノートを残していれば、何とかなる*3気がする。それに比して、(1)は、本気でやりだす人がいたら、同じラボでも見抜けないことも十分考えられると思う。少なくとも論文を審査する人が見抜くことは不可能だろう。*4だから、捏造に対して審査や監視を厳しくすると言うよりは、とりあえず実験ノートは必ずつけて、あとは第3者の再現実験が成功したら初めて論文の価値が出てくるという今までのやり方(研究者は論文についてそう思っている)を続けていくのがよいと思う。
  • ちなみにブルーバックスの「プリオン説はほんとうか?isbn:4062575043」でも触れられていたが、大発見と後に言われる発見は、後で考えるとデータの解釈が発見そのものでなかったりすることも多い。研究者の世界観を突き動かしたことが成り行き的に評価される面がある。そういう大発見をねらって、悪意を持って捏造する人たちがいる。こういう場合でも、とりあえずみんなで追試しあうわけで、結果オーライ(いや、だめだが)の側面はある。なかなか難しい。
  • Ptenの方は、正直よく分からない。処分が軽い云々よりもとりあえず詳しい経緯を報じてくれないと、大阪大学という法人を信じようにも信じられない。何が問題だったかも分からないのだから、これからどう良くしていくのかもよく分からない。だから、今後阪大の論文を見たら、どんなに教授が「やりました」って顔で記者会見していても、たまに学部生の嘘データが混じっているかもって思わないといけない。少なくともそう思われないようなパフォーマンスは必要なのではないかな、と思う。
  • スギ花粉対策のデータ粉飾の件。林野庁スギ・ヒノキ花粉に関する情報というページのQ&Aにあの手この手で効果を大きく見せる粉飾があったらしい。これも普通に、もし論文まで出していれば捏造と言うことになるだろう。しかし、今回はQ&Aに留まったのでそれほどみんな騒がない、の?いやー、その対応は違うんじゃないかなとボクは思う。だって、この粉飾が一番(もし発覚しないでエスカレートすれば)すぐに大規模に実施に移される可能性があった。山々を変なやり方で改変し、お金を使って花粉を増やすことになったかもしれない。もっと怒っても良いのではないか。

<追記>
日経BPのオンラインフリーペーパー「BTJジャーナル」2006-03月号にptenの詳しい経緯が出ました。(2006.03.24)

*1:いや−、僕は人のこと言えないが。

*2:少なくとも表面の印象としてはそんな先生。

*3:ボク馬鹿でしたーということにはなるだろうが。

*4:新しいことを見つけたという報告なのに、「あり得ない」とか何とか言って却下することにすると、本当に新しい論文は出てこないだろう